ホロヴィッツとルドルフ・ゼルキンが仲良しだった話
一見対極なコンビに限って仲がいい、といった話です
How dare you talk like that? He’s the greatest pianist in the world!
「20世紀の大ピアニスト、ホロヴィッツとゼルキンが仲良しだった」と知ったとき、計らずも「え、あの2人が!?」と驚愕しました。2人とも大好きなピアニストなのですが、正直気が会うコンビとはとても思えなかったのです。
まずゼルキンは「ドイツ音楽の最右翼」と称され、そのスタイルは実直そのもの。有名なのはセルとのブラームス ピアノ協奏曲1番や、アバドとの モーツァルト ピアノ協奏曲集などがあります。
ゴツゴツした太い指で弾きながら体を前後させ、全身全霊を演奏に傾けているのが印象的です。性格は温厚篤実で、晩年のにこやかな表情も写真から伺えます。
続いてホロヴィッツ。クララ・ハスキルをして「ピアノの前の彼は悪魔のようだ」といわしめるヴィトルオーゾ。協奏曲ではチャイコフスキー ピアノ協奏曲1番、ラフマニノフ ピアノ協奏曲3番が有名です。その演奏で聴衆を熱狂させ、悪魔的、鬼神の如きといった形容がピッタリきます。
皆から愛されたピアニストですが、なかなかに神経質で気分屋だったそう。またメンタルの浮き沈みが激しく、1953~1965年の12年間家に篭っていたこともあります。
その性格から、同業のルービンシュタインとは色々あって長い間絶縁関係にありました。
復帰後はTVリサイタルなども行っているため、演奏動画は比較的多いです。十八番であるスクリャービンのエチュードは”鬼神”であることを納得させられます。
前置きが長くなりましたが、この2人が実は仲良しで互いに尊敬し合う関係だったのです。
1930年代、キャリア全盛期でホロヴィッツが休養したときも、ゼルキンは毎日のように家を訪れて一緒に”ハンマークラヴィーア”などを弾いたといいます。
印象的なエピソードがあります。
音楽院の教え子の2人を夕食に招待した日のこと。生徒がホロヴィッツの録音を持ってきて
It’s a real disaster – it’s Horowitz playing, and there are a million wrong notes!
(ひどいもんだ。ホロヴィッツの演奏だけど、間違いだらけだね。)
とこぼしました。きっとホロヴィッツの愚痴で盛り上がると思ったのでしょう。
しかし、これにゼルキンは激怒します
How dare you talk like that? He’s the greatest pianist in the world!
(なんでそんなことを言うんだ!彼は世界一のピアニストじゃないか!)
※訳が間違っていたらすみません
ホロヴィッツも「自分でなかったらゼルキンになりたい」というコメントを残しています。
2人は同い年で、共通項も多かったのだそう。若かりし頃のホロヴィッツとゼルキンが並んで一緒にピアノをを弾いているところを見てみたかったな、と心から思います。